南ア南部 烏帽子岳(2726m)、前小河内岳(2784m)、小河内岳(2801.6m)、大日影山(2573m)、板屋岳(2646)、荒川前岳(3068m)、荒川中岳(3083.2m)、荒川東岳 (3141m) 2011年8月15-17日

所要時間

8/15
4:52 鳥倉ゲート−−5:29 登山口 5:36−−6:27 稜線−−7:03 水場−−7:47 三伏峠−−7:59 水場 8:03−−8:06 水場分岐(休憩) 8:24−−8:56 烏帽子岳−−9:27 前小河内岳(休憩) 9:43−−10:11 小河内岳−−11:04 登山道を離れる−−11:07 大日影山 11:13−−11:15 登山道−−11:22 鞍部(休憩) 11:40−−12:08 板屋岳 12:16−−12:49 高山裏

8/16
3:59 高山裏−−4:18 水場−−6:01 荒川前岳−−6:10 荒川中岳(休憩) 6:32−−7:23 荒川東岳(休憩) 8:27−−9:13 荒川中岳−−9:22 荒川前岳−−9:28 標高3040mで休憩 10:06−−11:16 水場−−11:30 高山裏

8/17
4:14 高山裏−−5:01 板屋岳−−5:21 鞍部−−5:28 大日影山直下−−6:39 小河内岳(休憩) 7:02−−7:30 前小河内岳−−8:07 烏帽子岳−−8:34 三伏峠−−9:02 水場−−9:25 稜線を離れる(休憩) 9:46−−10:16 登山口−−10:54 鳥倉ゲート


概要
 2泊3日で鳥倉林道から悪沢岳を往復。初日は好天で午後からにわか雨。2日目は早朝は晴れたが午前から昼ごろにかけて稜線はガスの中、夕方に晴れ。最終日は朝からガスってほぼ視界無しで、林道に下ってから雨。荒川三山ではほぼガスの中で展望は楽しめなかった。

 三伏峠より先はほとんどの登山者が塩見岳方面で小河内岳方面は数人しかいなかったが登山道はしっかりしている(草のはみ出しはあるが)。大日影山は登山道は巻いてしまうがシラビソ樹林で籔無しで山頂に行ける。地形図の標高点より西側の小日影山への稜線分岐点に今でもKUMOあり。今の時期の高山裏避難小屋は管理人ありで幕営場所(区画番号)を指定された。水場は秋と違ってかなり上部で水が出ていた。

ルート図。クリックで等倍表示

 今年のお盆休みは節電のための輪番休業がくっついて11連休。でもこの年齢だとそんな長期幕営に出かける元気もなく、アルプス級の山でまったり涼むことを目的としたい。水の便を考えるとやっぱ南アが適当そうで、いろいろと考えてしばらく登っていない荒川三山を目指すことにした。ここは確か2回登っているが、千枚小屋方面から登ったり、赤石小屋から登ったりと南側からのアプローチばかりで、今度は北側から攻めることにした。鳥倉林道から三伏峠経由で入ると2泊程度で、テントを背負って歩いても余裕が持てるだろう。幕営個所は高山裏が適当で、ここなら水に不自由しないし樹林帯で雷雨が来ても安心だし、標高はそこそこなので寒すぎもしないだろう。車で入る関係で同じコースを往復するのが欠点だが車のメリットを考えればこれくらいは我慢か。

鳥倉ゲート 鳥倉駐車場。ほぼ満杯

 金曜日まで仕事があり、この日から高速道路の渋滞が始まっていることと、大気の状態が不安定で午後は雷雨の可能性が高いことなどから土日は下界で過ごして月曜日から入山することに。日曜朝まで高速の下り線の渋滞が続いたがお昼くらいには解消、逆に上りが渋滞し始めた。おかげでこちらはすいすい走ることができ、中央道松川ICで降りて鳥倉林道を目指す。日曜夜なので駐車場にはいくぶん空きがあると予想したが的中、ゲート前の駐車場には数台の空間があった。まあ、明日朝になれば路側にも車が並ぶのだろうが。標高は1650mほどあるので涼しいどころか寒いくらいで、座席の下に熱源のエンジンがあっても少し窓を開けるだけで室内に熱が籠ることはなく快適に寝られた。

 翌朝、暗いうちに起床し、飯を食ってライト不要な明るさになって出発。今回は2泊の予定で通常なら70リットルのザックを担ぐのが常道だが、これが結構重くて2日目に予定している荒川三山往復で無駄な重さを担ぐことになるため、昨年秋の西穂でやったように40リットルザックの側面にロールマットを入れていた袋をくっつけ、その中に軽いがかさばる衣類等を詰め込んでザック本体の中に空間を作り、寝袋、テント、それに食料を入れることにする。これだとザックの重さで1kgくらいの軽量化ができるのでメリットが大きいが、ザック外に出ている荷物が多いので雨が降ったときに困るのが難点だ。

林道から見た小河内岳〜小日影山
林道から見た小日影山〜奥茶臼山

 天候は朝からほぼ快晴で小渋川を挟んだ対岸には前茶臼山、奥茶臼山の稜線が見えており、手前には小日影山へと続く稜線。ゲートをすり抜けて立派な舗装道路をテクテク歩いて小尾根を回り込むと小河内岳から大日影山の稜線が目に入る。一直線に行ければ近いのだが・・・・。

登山口 登山口に設置された地質の解説板

 登山口には地質の案内標識が追加され、この付近は石灰岩であることが書かれていた。帰りに落石を見てみたが、非常に緻密な石質らしく風化した表面を見てもフズリナやサンゴの化石は見られなかった。仮設トイレは以前と変わらず設置されていた。ちゃんと定期的にメンテナンスされているようで、ドアを開けても恐ろしい光景は出現しなかった。

唐松植林帯を登る 尾根を巻いてシラビソ樹林に突入
ガレ上部から見た小日影山 豊口山に続く稜線に乗る

 何度も歩いた登山道なので様子は分かっている。下部は唐松植林帯→小尾根に乗ってから巻き始めるとシラビソ樹林→トラバースして登っていくと標高2200m近くで豊口山の稜線→尾根上を進むが2248m峰を北から巻く→再び尾根に乗った後は尾根の北を巻きつつ斜めに登る→水場→塩川分岐→三伏峠の順序だ。高度を上げると唐松植林からシラビソ自然林へと切り替わり、南アらしい植生に変わる。豊口山の稜線へ出る手前で登山道下部にガレが登場し樹林が途切れ、大日影山から小日影山の稜線が目の前にでかでかと見えた。

深いシラビソ樹林を登る 豊口山
三峰川方面 水場

 豊口山の稜線に乗ると、しばし尾根上を登るようになる。ここで一人に追い越されたが塩見岳日帰りの人だろうか。2248mピークを北側から巻いて東鞍部に出ると登山道は稜線北側を巻き始める。尾根上に冬ルートが無いか見てみたが苔むしたシラビソ樹林で踏跡、目印は見られなかった。たぶん冬は林道が使えないのでわざわざ冬に鳥倉ルートを選択する人はいないということなのだろう。しばらくすると水場が登場、太い流れではないが夏から秋に歩いて涸れているのを見たことがないので、雪に埋もれるまではずっと使えるのだろう。適度な場所に位置していて利用価値が高い水場だ。ここで水を飲んで顔を洗って出発。下山する登山者と次々とすれ違った。

塩川分岐。通行止めだった ジグザグに登る
樹林切れ間から見た塩見岳、南ア北部

 さらにトラバースを続け、塩川からの登山道と合流すると登山道は上を目指し始める。塩川方面の登山道は通行止めとなっており、看板によると塩川小屋付近で登山道が崩れたとのこと。まあ、手慣れた人なら通過できないような大規模な崩落ではないと思うが、現在は鳥倉ルートが主要コースとなっているのでわざわざ塩川から廻る人もいないだろう。途中、樹林が切れて北側の展望が開ける場所があるが、若干雲があるが塩見岳はすっきりと見えていた。

三伏峠小屋 三伏峠テント場
塩見方面/荒川方面分岐 水場分岐から烏帽子岳方面。斜面はお花畑
水場へと下る 水場」

 ジグザグに切られた登山道を登り切ると山伏峠小屋に到着、昨夜小屋に泊まったり幕営した人は既に出発した時刻なので小屋は静まり返っていた。残置されたテントの主たちは塩見岳を往復中なのだろう。テント場を過ぎて塩見岳分岐を通過、さらに緩やかに下ると旧山伏小屋方面の水場分岐に到着、単独男性が休憩中だった。ここまでほとんど休憩なしで歩いてきたので少々休憩。水場に下っていく。ハイマツとダケカンバの茂った浅い谷状地形を緩やかに下ると小さな小屋が登場、中にはエンジンとポンプが設置されており小屋に水をくみ上げるためのものだ。ラジオの音が聞こえていて誰か他に人がいるのかと周囲を見渡したが私だけ。よく見ると小屋には熊よけのためにラジオを付けっぱなしにしているのでラジオを切るなとの注意書きがあった。水をためるドラム缶に流れ込んでいるはずの水は止まっており、ここでさえ汲み上げなければならないようだ。昔来た時は流れていたけどなぁ。水を飲んで縦走路に戻ってから休憩した。

稜線へ上がる登山道両脇はネットで囲まれる マツムシソウ
たぶんタカネナデシコ 稜線北側を巻く登山道
稜線に出た場所から見た小日影山の稜線

 さあ、高山裏まで稜線を縦走開始だ。昔はただの野原だった稜線へ突きあげる登山道両脇は鹿の食害防止のためネットが張られていた。もう花の時期は終わりに近く、マツムシソウがたくさん咲いていた。稜線に出ると南側は大きくガレており、以前はガレの脇に登山道があったように記憶しているが、ガレが進んだ場所ではう回路ができており稜線北側の樹林を歩く個所も多い。でも展望があって風が吹き抜ける稜線の方が気持ちいいなぁ。ガレた個所には荷造り紐が張ってあり、それが風になびいていた。南を見ると大日影山〜小日影山の稜線の向こうには聖岳や大沢岳も見えていた。今日はいい天気だ。

ガレを歩くと風が涼しい 烏帽子岳山頂付近
ガレから見た南側の展望
烏帽子岳山頂 烏帽子岳から見た塩見岳山頂部
烏帽子岳から見た上河内岳避難小屋 烏帽子岳から見た前小河内岳
烏帽子岳から見た展望写真(クリックで拡大)

 幕営装備を背負って長時間歩き続けた影響か、さっき休んだばかりなのに少々疲れ気味で烏帽子岳の登りで苦労する。すぐに森林限界を超えてハイマツの展望尾根を進んでいき、立派な標識の立つ烏帽子岳到着、ようやく荒川三山が姿を現す。明日はあそこに立っているはず。今日くらい天気が良ければいいのだが。もう午前の早い時間を過ぎてガスが上がってくる時間帯にかかってきており、奥茶臼山よりも奥で雲が湧きだした。だんだんとこちらに寄ってくるかなぁ。よほどここで休憩しようかと思ったが我慢して前小河内岳まで歩くことにした。

ガレを上がってくるガス なだらかな稜線区間
前小河内岳山頂 前小河内岳から見た塩見岳
前小河内岳から見た荒川三山

 気持ちのいい稜線を歩いて前小河内岳到着。ここは地形図に名前が記載されていないので山頂標識はなく境界標石が立つだけだった。ここで大休止。長野側からガスが上がってくるようになり、小河内岳山頂もガスの中に入ってしまったが、静岡側に飛び出した荒川東岳はまだすっきりと晴れていた。ここは森林限界を超えて日陰が無く、ガスが上がってきて日が翳ってくれた方が快適で助かるのだった。ここから上河内岳までが遠いかと思いきや、意外になだらかそうな尾根が続き、これなら小一時間程度で到着できそうだ。

 休憩を終えて出発、鞍部へと下ると荒川方面からやってきた登山者が休憩中。その先で登山道は尾根の東側を巻くようになり西よりの風が当たらなくなるので、ここが休憩場所として適当なようだ。稜線を巻くようになると風が当たらなくなり一気に体感温度が上がる。冬なら生き返る暖かさだろうが夏山では・・・・。いつの間にか周囲はガスに覆われるようになり視界が完全に無くなった。まあ、展望は朝方楽しめたからいいだろう。もう10時近いので雲が上がってきても仕方ない時間帯だ。今はガスって涼しくなるほうがありがたい。雨は困るけど。

鞍部より登りにかかる 上河内岳避難小屋
上河内岳山頂 上河内岳から下る
樹林帯に入る マルバダケブキの群落

 休憩の効果は大きく、上河内岳の登りもゆっくりペースで歩けばどうということはなくあっけなく山頂に到着。山頂東直下に避難小屋があるが今は用事がないのでパス、山頂もまだ休憩するには早いので素通りだ。ガスっているとは言っても視界は100mくらい得られるので行動に支障は無く、ハイマツの尾根上の道を下っていく。やがて樹林帯に入ると傾斜が緩んで小さなアップダウンを繰り返す。南アでは標高2650m前後が森林限界なので、上河内岳より先は荒川三山直下まではシラビソ樹林やダケカンバが続く。時々樹林が切れた場所ではマルバダケブキの群落が見られた。フキのくせになぜか立派な花が咲いているのが不思議だ。こいつは鹿が食わないようである。

 今回はGPSは持ってこなかったので、山頂を巻いてしまう大日影山の位置が判断できるかちょっと心配だった。ここは2回山頂に立っているので素通りしてしまってもいいが、登山道から近いのにほとんど人が来ない場所であり、今回のルートで唯一の登山道の無い山と言えるピークなので登っておきたかった。前回、高山に登った時についでに大日影山にも立ち寄っており、山頂に最短で達することができる登山道脇のシラビソに赤テープを巻いておいたので、それを発見できれば無駄な労力を使わずに立ち寄れる。見逃した場合、南側の鞍部に出れば樹林が切れて開けた砂礫地なのですぐに分かるので、戻って登り返すことは可能だ。

大日影山直下の目印 大日影山最高点(地形図上の2573m標高点)

 登山道はシラビソ樹林の尾根上を通ったり巻いたりしながら進むし、樹林で周囲の地形が見えないので大日影山の横を通っているのか判断するのは難しい。しかし、前回残した赤テープを無事に発見、文字も何も書いていないが一見して私の巻いた物と分かった。ここでザックを下ろして空身で西に向かう。周囲は少し細めのシラビソ樹林だが藪は皆無で順調に上がる。すぐに稜線直下に出て、そこは立ったハイマツがはびこっているのは前回の経験どおり。最高点らしき場所に立つが、やっぱり前回同様KUMOは見当たらない。しかし山頂付近は同じような高さの尾根が続いており、もしかしたらKUMOがあったのは最高点ではなく小日影山に続く尾根の分岐ピークではなかろうかと思い当たり、ハイマツの上に乗って周囲を見渡してまだ西側にも同じような高さの場所が続いていたので西にずれる。立ったハイマツの中なのでこれにはてこずり、少し北側を巻いて激藪区間をパスした。山頂付近は複雑な地形で2重山稜のような形になっていて、東側の尾根の一角が最高点だった。

最高点西側のKUMO 10年以上健在のKUMO
KUMO地点から北側は籔無し 登山道向けてシラビソ樹林を下る
大日影山付近から見た板屋岳方面 鞍部にもタカネナデシコ
大日影山南鞍部。砂礫地帯 鞍部から見た上河内岳方面

 浅い谷地形を越えて僅かに登って西側の尾根に出るとありました! シラビソの木にKUMOがかかっていた。周囲に目印類は皆無、最初に私が登ったのは10年以上前だと思うが当時と全く変わりがないと思う。いや、木が生長してKUMOを縛る針金がきつくなっていたので、今回は緩めておいたのが違うな。これより西側は下りになっているので小日影山に続く尾根の起点であるのは間違いない。武内さんはここから小日影山を往復したのだった。これで今回のお楽しみの一つをクリア、登山道に戻ってザックを回収、南側の鞍部で大休止した。濃いガスが流れて風もやや強く、風に直接当たると寒いくらいなので東側に下った場所に陣取った。この時間では他に登山者の姿はなかった。

稜線北側を巻く ガレで稜線上に戻る
板屋岳直下 板屋岳山頂

 さあ、あとは高山裏まで頑張ろう。登山道は尾根の北側の樹林帯を巻き、尾根上に復帰したところから振り返ると結構険しいピークだった。余分なピークを巻いて労力削減してくれる登山道なのだから助かる。尾根上では西側がガレた部分では霧と風が吹き付けて寒かった。こうなると巻き道で尾根東を歩いている方が快適だ。樹林帯に入って尾根東を巻き気味に登ると板屋岳到着、いや、正確には西側直下であり、ここも空身で藪に突っ込んで山頂を踏む。稜線の真上だけは立ったハイマツで始末が悪いのは大日影山と同じだった。昔はここもKUMOがあったが今はその姿は無かった。ここで山伏峠方向に向かう単独男性とすれ違った。

高山裏へと向かう ガレの縁で視界が開ける
ガレから板屋岳、小日影山の稜線を振り返る
さらに下る 高山裏避難小屋

 さあ、ここまで来れば高山裏は近い。ガスと樹林で先が見えないので残距離が分からないのがイマイチだが、おおよそ下りが続くのでそれほど疲れが加わることはない。尾根を下ってガレの縁を通過すれば高山裏は目の前で、草付きの斜面に出ると眼下に避難小屋の屋根があった。

No4のテント場 テント設営後。直後に雨が降り出した

 夏山シーズン中は管理人常駐であり、テント場料金\600を払って指定された区画「4」にテントを設営した。場所を指定されるなんて久しぶりだなぁ。たぶん広い場所に張って大学生パーティーのような大型テントを張る場所がなくなることがないようにコントロールしているのだろう。設営が終わって水汲みに行こうとアタックザックを背負って歩き出したとたんに雨が降ってきた! 急いでテントに戻ってしばし昼寝兼雨宿り。こんなに早く雨がやってくるとは思わなかった。今回はフライシートも担いできたので大雨でも問題なし。私のゴアライトは15年くらい使用しており、もう縫い目の防水がダメで強い雨だと雨漏りしてしまうため、ゴアのテントなのにフライが欠かせないのであった。断続的に雨は降ったり止んだりしたが、隙間を縫って小屋を下った先の内無川源頭の水場へ。9月の高山登山の時はそれなりに沢を下ったところでないと水が出ていなかった、この時期は沢に下りついてすぐのところで細い流れながら水が出ていた。ただ、管理人の話ではあと数日でここも涸れるだろうとのこと。この下の水源までプラス数分だろうか。そちらはかなりの水量なので雪に埋もれるまで年中無休だろう。テントに戻って酒盛りをして睡眠。少し離れたところに大学生パーティーの大型テントがあり、しばし賑やかだったが私より先に眠りに落ちたようだった。

 翌朝、空を見上げると星が出ており昨夜の雨は上がったようだ。さあ、荒川三山で大展望を楽しめるだろうか。ここからだったら前岳まで2時間程度だろうから6時くらいに到着可能、ガスが上がってくるには早すぎる時間帯なので展望を楽しめる確率は高いはずだ。大学パーティーは3時半くらいに出発、こちらは朝飯を食って4時に出発。7月下旬だと明るくなり始める時間だが今の時期はまだ真っ暗、ライトが頼りだ。日の出は5時前なので4時半くらいから明るくなってくるか。でも樹林帯は明るくなるまで時間がかかるか。

真っ暗な中を出発 水場。帰りに利用

 登山道がしっかりしているので真っ暗闇でもライトの光で迷うことはない。今日はテントを残置なので荷物も軽く足取りも軽い。片手に扇子で扇いで涼を取りながら進んでいく。荒川方面の途中で水場があったはずだが意外に離れた場所にあり、少し下った小さな谷の源頭で水が出ていた。今回は1リットルの水を背負っているのでここで水を汲む必要はないが、帰りがけはここで水を補給していく予定だ。

 深く真っ暗なシラビソ樹林のトラバースが続き、前方にヘッドランプの光が見えてきた。先行していた大学パーティーのものだ。あちらは大ザックを背負って縦走中、かたやこちらは飯に水、防寒装備の軽い荷物なのであっという間に追いついて先行となった。闇夜でのルート判断の慣れの影響もあるかもしれないが、追い越してから背後の光が見えなくなるまで僅かの時間だった。前方から下ってくる登山者とすれ違うのはまだまだ先だろう。一番早いのは中岳避難小屋、次は荒川小屋、続いて千枚小屋や赤石避難小屋、最後に赤石小屋の順番かな。お盆の時期だと中岳避難小屋や赤石避難小屋は利用者はいないかも?

森林限界近し 森林限界突破
後方の展望

 樹林帯の背が低くなってくる頃に徐々に明るくなってきた。振り返ると樹林の隙間から板屋岳が見えるが上空は雲が多くすっきりとした晴れではなかった。でもこれから晴れのエリアが押し寄せてくるかな? 植生がシラビソからダケカンバに切り替わると本格的な登りが始まり、徐々に森林限界が近づいてくる。ナナカマドが中心となると森林限界目前で、やがてハイマツや草付きも交じり合って森林限界を超える。残念ながら前岳の稜線は雲が時々かかっており、天候が回復して展望が得られるのかどうか微妙な感触だ。

これより上部がカールの底 左の標識から上部を見る。この石の上を登る

 標高2700mを越えた地点でハイマツ帯の登山道から落石の積み重なった河原のようなガラ場の登りに変化、カールの底をまっすぐ上がっていく。これで晴れていたら気持ちいいんだけどなぁ。相変わらず稜線上はガスに隠れたりガスが晴れたりと変化が激しい。

すれ違った登山者 稜線に乗るがガスで先が見えず

 カールを登りきって稜線の一角に乗るがガスの真っ只中で周囲は見えない。南西の風が強くTシャツに半ズボンでは寒いくらいだ。まだ前岳の標識が現れないが、ガスって先が見えないのでどのくらいの残距離があるのか分からない。それほど遠くないはずだけど。稜線の南側は荒川大崩壊地で登山道も一緒に崩れ落ちた箇所もあり、北側に迂回路が数箇所できていた。

荒川前岳山頂。山頂標識が崩落寸前 荒川中岳へ向かう
赤石岳方面分岐 荒川中岳

 時々ガスが晴れて青空が見えるようになった頃、久しぶりの荒川前岳に到着。まだ無人で風の音だけ。山頂標識は崩壊が進んだおかげで根元の地面は半分消え去っており、あと数年もすれば山頂標識も崖下行き確実だ。かなりのスピードで崩壊が進んでいるようだ。ガスの切れ間から中岳や東岳も見えるようになり、中岳山頂に人の姿が確認できた。これなら天候は回復傾向と判断してよかろう。寒さが限界なので岩陰で防寒装備を着こんでまずは中岳まで。鞍部で赤石方面分岐を見送り、僅かに登ると荒川中岳山頂。ここで東側に下って風を避けながら本日初めての休憩。ガスの流れが速いが一瞬晴れて大きな東岳山頂が姿を現す。南に目を向けると笊ヶ岳などの白峰南嶺が連なっているが、赤石岳は雲の中、北側の南ア北部もすべて雲の中に沈んでしまっている。これだと荒川東岳で展望が得られても楽しさ半減だなぁ。時々出てくる太陽の暖かさがうれしい。

荒川中岳から見た荒川東岳 荒川中岳避難小屋
鞍部へと下る 鞍部からジグザグに登る

 さあ、最終目的地の東岳へ向かおう。1時間くらいかかるがその間にガスが晴れるといいのだけれど。中岳避難小屋前を通過してもったいないが鞍部へと下る。ここにきて高山植物がたくさん咲いているのを見かけるようになった。前岳への登りではほとんど無かったような。鞍部からジグザグに登り、岩稜帯に突入する頃には下る人が目立つようになった。千枚小屋を出発し、東岳で休憩を終えた登山者だろう。これだと山頂では一瞬展望が見えた程度だったかな。岩稜帯といっても特に危険箇所はなく、目印に従って手がかり、足がかりの多い岩を登ればよかった。

中岳〜東岳間は花が多い 岩場を登る。難しい場所は無い
東岳山頂が見えてきた 荒川東岳山頂

 山頂近くまで達するとなだらかな稜線に乗り、緩く登ると大きな石が積み重なった荒川東岳に到着。昔は小さな手製標識があるだけだったが、今は東海フォレストの太い標柱が立っていた。残念ながら天候は前岳のときと変わりがなく、大半の時間はガスの中で一瞬だけ晴れるけど周囲の山は雲の中というパターンであった。それでも南アの場合は早朝のみ稜線にガスがかかることがあり、時間が経てば晴れるかもしれないと1時間ほど粘ったが結果は同じ。どうも東岳の相性は良くないらしく、これで3度目だが3度ともガスに巻かれてしまった。お盆とは言え今日は平日でピーク時よりはずっと登山者数は少ないのであろう、山のように人が群がることはなく比較的静かだった。

復路の中岳避難小屋 復路の中岳

 山頂に長居してしまったので本日の行動は高山裏で打ち止めにして、本格的に下山するのは明日にするか。無人となった東岳を後にしてガスの中を下る。赤石小屋から登ってきた登山者だろうか、登りの人と次々とすれ違う。この分だともう今日は晴れることはないかなぁ。早朝に追い越した大学パーティーもその中に混じっていた。中岳に大ザックが転がっていたが、たぶん彼らのものだろう。

復路の前岳 稜線を下る直前で休憩

 前岳手前の鞍部にはたくさんのザックが転がっていたが、おそらく前岳への往復組だろう。案の定、山頂には20人前後と思われる大パーティーが。どうやらガイド付きパーティーらしい。残念ながらガスって全く展望がなく寒い。山頂を過ぎて本格的に下りだす前の肩の部分まで進んで風を避けながら最後の休憩。しばし寝転んでいたがその間に通過した登山者はいなかった。やはり荒川〜山伏峠間の登山者数は、荒川〜赤石周回や山伏峠〜塩見岳往復の登山者数より格段に少ない。

カールの底辺 雲の層を抜ける

 休憩を終えて下山開始。西寄りの風が強くかなり寒く感じ、ダウンジャケットを着たまま歩き出しても汗をかかない。途中で数人の登ってくる登山者と遭遇、これは山伏峠を今朝出発した人に間違いない。標高2700mでもまだガスの層の中だった。森林限界を切って樹林帯に変わる頃にやっと雲の層から抜け出した。板屋岳も雲の中なので、雲の底の高さは標高2500m強といったところか。

井戸沢の頭へ続く斜面 登山道は井戸沢の頭を巻く
樹林の隙間から見た高山裏避難小屋 水場

 樹林をトラバースし水場で水補給。寒かったのでほとんど水を消費することはなく、2リットルのプラティパスをいっぱいにするだけでOKだった。高山裏に到着して連泊の手続き。今日はまだ他のテントはなく、小屋の前で歓談する登山者の姿もなかった。結局、この日は私以外に泊まりはいなかったようだ。朝からガスったままで雨が来るかと思いきや、この日は雨が降ることはなく、逆に夕方になって晴れ間が見えたりした。ただし稜線上でも晴れたかどうかはわからない。

板屋岳 大日影山南側鞍部
樹林帯を北上

 翌朝、起床して空を見上げると雲が多いようだが薄い雲を通して月が見えているので基本は晴れのようだ。飯を食って今日も真っ暗な中を出発。さて、帰りがけに最後の展望を楽しみながら進めるといいが、昨日のようなガスだったら困るな。涼しいのはいいけど。高度を上げて板屋岳が近づくと霧が漂うようになり、今日も朝からガスられてしまったらしい。大日影山との鞍部もガスの中、風が冷たいし眼鏡に霧が当たって水滴ができて視界を遮るが、樹林帯に入ってしまえばそれも無くなって快適に歩ける。

樹林帯を突破 ガスの中を登り続ける
一瞬、ガスが切れて小日影山が見えた 小河内岳山頂

 いくつかのこぶを越えて上河内岳の登りにかかり、森林限界を超えると再び霧の中へ。木が無くなって風がもろに当たると寒い。下界の暑さを考えると寒さなんて贅沢かも。一瞬だけガスが切れて小日影山の稜線が見えたがすぐ隠れてしまった。上河内岳で風を避けて休憩。その後もガスが晴れることはなく、森林限界の稜線上を歩く箇所では細かい水滴+風で体感温度が低く寒かった。

烏帽子岳山頂 稜線を離れてお花畑を下る
三伏峠テント場 三伏峠小屋

 水場への分岐を通過して登り返し、塩見岳方面の縦走路と合流すると途端に登山者の姿が増えた。さすが塩見、そしてその登山基地の山伏峠だ。山伏峠も霧の中に沈んでおり、このままガスが続くのか、昨日のように後で晴れがやってくるのか。鳥倉へと下山にかかると次から次へと登ってくる人とすれ違うようになる。今日も駐車場はほぼ満杯かな。豊口山分岐で最後の休憩。残った食料をすべて食い尽くした。

水場 豊口山分岐
林道から見た鳥倉駐車場。この直後に本降りの雨 鳥倉ゲート到着

 林道へと下っていくと予想外にも雨粒が落ちてきた。ただ、ラジオの天気予報ではにわか雨はあっても基本は晴れの予報だったはずで、本格的な雨が来るとも思えない。すれ違ったオバサンパーティーも雨に嘆いていた。それがすれ違った最後の登山者だった。林道に出て人影のない林道をトボトボ歩いていると、突如として本降りの雨模様となってしまった。雨具を付けないとびしょ濡れになるレベルの雨で、急いで木の枝が張り出して道路上が乾いている場所に避難し、ザックカバーをかけて人間は傘で雨を防御。まさかこんな朝から本降りとは。山の上も同様かこれ以上だろう。駐車場に到着する頃には小降りになってくれたが、小日影山は雲の中だった。駐車場は数台の空きがあり、お盆の平日はこんなものか。

 

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